書道をはじめる方へ道具についてお話しするのに一番悩むのが筆です。
私のお稽古はまずは墨液で始めることにしているので、硯や墨のいいものを最初から揃えるようにはすすめません。(あまりこだわる必要もないとはいいますが、大人が学童用の墨液や紙をいつまでも使っているのは困ります。なるべくお金をかけたくないというにも程度があります。)
ただ筆は最初から多少なりともよいものをもっていただきたいのです。子供の筆と兼用で始めようとする方もいますが、大人用と子供用とでは筆の仕様が異なりますし大人の課題は子供の筆では書きづらくて見栄えもせず下手にみえて嫌になるだけです。
私の相場として(ここ最近は筆も値上がりが目立ちますので今の相場ですが)
小学生までの学童用は、太筆1500円以下 小筆500円以下ぐらいのもので十分です。
子供は筆圧が強いですし、大人では考えられない使い方をする子も多いので消耗品と割り切ってください。半年から一年に一本ぐらいは買い替えたほうが良いと思います。また穂先の短いものを使います。子供は穂先が長いと使いこなせないので学童用は穂先の短い短鋒です。
大人の場合、値段的な相場は、
探せば掘り出し物で千円台もたまにみつけられますが、初心者向けで三千円ぐらいのもの。
中〜上級になって隷書ぐらいまで書くようになれば5000円前後。(五号で5000円台ぐらいになると、同じ名前で価格が違うのは毛量とか鋒の長短とかの差で値段が変わり筆のグレードそのものは同じだったりします。5000円前後の筆が日頃の練習でも一番使う価格帯の筆です)
四段にもなって条幅を書くようになればどのような作品を書くのかにもよりけりで鶏筆や馬、狸、羊毛でも細光鋒など筆の種類にもぐんと幅が広がり値段もキリがありませんが……この頃には墨、硯、紙あらゆるものにこだわっていただきたいと思います。
鼬系・茶色の毛の筆は、楷書、他に草書行書にも使えます。書きごこちはコシがあり硬いです(剛毛筆の類)。初心者はまず一本、この茶色の毛の筆を持つといいと思います。
つぎに羊毛系・白色の筆もなんでもつかえます。鼬よりコシがなく柔らかです(柔毛筆)。羊毛だけだとコシがないのですが、芯に硬めの毛がはいっていたりと調整してある筆もあります(兼毛筆)。羊毛は最初はすこし苦戦するかもしれませんが慣れれば鼬よりなんでも書けます。私のやり方ですが、隷書・篆書は、羊毛でないと書きにくいように思います。羊毛は逆筆がやりやすいので書きやすいです。鼬はコシがあるのでどうしても穂先がでてしまい、隷書篆書にはむかないと思います。
※毛の種類は、柔毛筆 、剛毛筆 、兼毛筆(柔と剛が混合したもの) があります。そして穂の長い(長鋒)、短い(短鋒)や軸の太さなどで筆は細分化していきます。
この鼬系と羊毛系の二種類の使い分けは課題により、好みもありますし、自分のその日の調子などによりなんとも言えないのでまずはこの両方を一本ずつもっておいていただければ安心です。
人によってクセもあるのですが、一本の筆でずっと書くより筆は何本かを課題や気分で使い分け、これを書くならこれかなーとか、今日はだめだな、筆をかえてみようとか、そんな感じです。
また、一本の筆でひたすら書いていると筆がくたびれてしまいます。
靴や服と同じで何本かをローテーションさせることも必要です。
私は自分の筆を捨てたことは記憶にありません。
だめになってきたなと思う筆もありますが、しばらく半年とか何年か休ませて久しぶりにかくといいじゃんと思ったりしますし、筆がわれたらわれたで面白い線がでたり、
買ったとき使いこなせなくても、しばらくしたら相性ぴったりになったりします。
また作品を書くときには何本かの毛質の異なる筆を数本をあわせ持って書いたりもします。古くなった筆を束ねて筆をつくり創作書につかったりもします。ですので、よっぽど破損でもしないかぎり筆を捨てることないのです。
結果的に、筆は日ごとに増えていきます。
いい筆は見つけたときに買っておかないとなかなか買えません。買う機会に恵まれたときに買っておきます。私は何十本も使っていない筆をもっています。頂きものも多いのですが、いつか使えそうだなーと思って買って置いたり、同じ種類の筆を数本買ってストックしています。書きたいと思ったときにいつでも適当な筆が手元で見つかって書けるように、筆と紙と墨を切らさないことです。
書道は、形から入るのも大切です。下手だからといつまでも安い筆や紙ばかり使っていてはそこでとまります。つぎの投資を自分にするとその道具に見合った力が身につきます。
下手だから、入門者だからと、安い書きづらい筆ばかり使っていては上達するものもしないですし、なにより気持ちがのらないことでしょう。
筆は思い切って良いものを買ってみることをおすすめします。
そのつぎは紙、そして墨、墨にこだわるようになれば必要になるのが硯です。これらはまたの機会に。